「さすがに食べ物はあげないからね。うちだって厳しいなかで生きてんだから」
「おせわになりました」
ここでもひとつ、丁寧に頭を下げる。
別に悪気があったわけじゃない。
純粋に、ただ、着物が無かっただけ。
そう伝わってくれたのか、急に潔くなった姿に女はうろたえた。
「あんた……行く場所はあるのかい」
「あっちにいくの」
指をさした先、なだらかにそびえ立つ山々。
歩きたい、走りたい、風を吸い込んで、めいっぱい叫びたい。
「だからそうじゃなくて!屋根とか布団とかあるのかって聞いてんのよ!」
「うん。あの空を屋根にして、この地面を布団にするの」
「……あんたみたいな子はね、江戸に住むのは無理よ?」
「エド?」
どうにもおれが言葉を返すと、女の機嫌を損ねてしまうらしい。
「ここ!ここが江戸!もしかしてこの子……遊郭から逃げてきたのかしら」
「ううん。ぼくはね、あのお城からきたの」
「……え?」



