「皆の者、面を上げ~!!」
今度は同じようにバッ!と、上げる。
その寸前にわたしの襟をくいっと引いたのはたぶん、尚晴。
「背筋は伸ばす、手は背中」
「わっ」
いつもの桂じゃない…。
「目線はまっすぐ。口は閉じる」
「んむっ」
こっちはいつもの尚晴じゃない…。
そんなわたしが警備する大宮口にぞろぞろと集団が近づいてくる。
そのなか、ひとりだけ馬に乗った人物。
頭に被った重そうな何かは、兜(かぶと)と言うらしい。
「───、」
パカ、パカ、と、ゆっくりとした足並みでわたしの前を通りすぎてゆく馬。
そこに乗る凛々しい姿、わたしのことにすら気づきもせず、門へと入ってゆく家茂公は。
本来であれば、わたしの、身内。
でもわたしのほうがずっとずっとおばあちゃんだ。
存在を隠されつづけて70年を過ごしてきたわたしは、本当はおばあちゃんなのだ。



