奈落の果てで、笑った君を。





『今度こそ選択を間違えるでないぞ、尚晴』



父の声が、俺の過去を呼び起こしてくる。


旗本に生まれた俺には、歳の離れたふたりの兄がいた。

三男として幼少期は過ごしていたが、今の扱いは実質次男だ。


それは、かつて俺が長男である兄を殺してしまったから。



『兄上…!!!ごめんなさい兄上…っ、僕のせいでっ、ごめんなさいごめんなさい…っ、あにうえぇぇぇ…っ』


『…尚晴…、泣くな、お前は立派な武士の子だ……、兄さんの背中を…忘れるんじゃ、ないぞ…、』



絶対に行ってはならぬと言われていた道に行ってしまった7歳の俺は、盗賊に襲われたことがあった。

近所の子供たちに自慢したいがために昆虫を採りたかった、そんなくだらない理由で。


そこで駆けつけた兄は俺を守った引き換えに、命を落とした。


俺が選択を間違えたからだ。

あの道に行かなければ、兄は今も旗本の長男として生きていた。


だから今、こうして父さんも気に入った娘と関係を続けているのは、その罪滅ぼしのようなものでしかない。