ここまで待たせるくらいなら、さっさと済ませて満足させたほうが得策だったのかもしれない。
長い時間を待たせたことに後悔があるのではなく、ここまで尾ひれを引く出来事にしてしまったことに後悔があるのだ。
「…わかった。少し付き合う」
「っ!ありがとうございますっ」
と、ため息は心にしまいこんで足を進めようとしたときだった。
「尚晴っ!お出かけするのー?」
「っ、…朱花」
タタタタタッと、風を切るように走り向かってくる。
その純真な屈託のなさと言ったら、俺をそちら側へ戻してしまうものには十分だった───が。
ぎゅっと、俺の腕をつかむ別の女の手。
「…すぐ帰ってくる。大人しくしているんだぞ」
「うんっ!行ってらっしゃい!」
そう、言うんだなお前は。
わかってはいた。
朱花はこういう子なんだ。
風にふわっと揺れる、色素の薄い髪へと触れてみたい。
そんなふうに俺が躊躇っているあいだに背を向けてしまうのが朱花だ。



