奈落の果てで、笑った君を。





「なにしてんのお前!!俺のほうが5歳も年上で先輩ってこと自覚してる??
いつも飾りみたいな“さん呼び”ってのも知ってんだからね俺」


「…朝から下品なことを言うほうが悪いです。先輩」


「和ませたんだよ空気を。こんな奈落の果てみたいな場所で笑ってられるのなんか、そこの能天気な娘だけだよ」


「……すみません今井さん、少し食欲がなくて。俺のぶんは朱花にやってください」



スッと立ち上がって部屋を出る。

「しょうせい…?」と、小さく聞こえた声だけが耳には残っていた。



「───尚晴様!!」



しかし、正午を過ぎて外に出た俺の前、屯所の外壁のそばから駆けてくる女がひとり。

さすがに逃げ場がないため、俺は冷静に対応することに決めた。



「…なにをしている。会えないと言ったはずだが」


「ずっと待っていたのです…!用事が終わったあとでもいいと思って…!」


「…朝からか」


「はい!」



逆に俺は何をしているんだと、そういう意味で思った。