「え?」

「私が先輩を追いかけるの。今日で全部おしまいだから、今日だけは許して」

 はっきりとそう告げると、思いのほか愁は動揺したように目を泳がせた。

「……おれ、は」

「あっ、せんぱーい!」

 そのとき、待ち合わせ場所にすでにユイ先輩が立っているのに気づいた。

 私は思わず大きく手を振って、先輩を呼ぶ。

 あたりをきょろきょろと見回してこちらに気づいた先輩は、一瞬だけ目をゆっくりと瞬かせてから歩いてくる。愁も一緒だったことに驚いたのかもしれない。

「……おはよ、小鳥遊さん。弟くんも」

「おはようございます、ユイ先輩」

 無地の白Tシャツに黒のサマージャケット。下は黒のスキニーパンツというシンプルな服装をしているユイ先輩。学校でも基本的に黒のベストを着用しているし、やはり私服も一貫してモノクロコーデらしい。

 ふたつしか色味がないのに、ユイ先輩が着るとただのオシャレ上級者だ。

 顔か、スタイルか。いや、どちらもか。

 好きな人の私服を見れたことにドキドキしながら、私は口を開く。

「愁、心配して送ってくれたんです。ほら、ご挨拶」

「…………おはよう、ございます」

 むううう、と心の声が聞こえてきそうなほど、愁の顔に暗雲が広がっていく。けれど、一応返してくれたことにほっとして、私は宥めるように愁の頭を撫でた。

「見送りありがとうね」

「っ、軽率に撫でるなよ。おれだって、もう子どもじゃないんだから」

「はいはい。じゃあ行ってくる。なにかお土産買ってくるから、楽しみにしててね」

「べつに、いらないし。……帰りも迎えに来るから、ちゃんと連絡してよ」