家族を巻き込み、わざわざ月ヶ丘高校の近くに引っ越してまで叶えたわがままは、それだけの価値があるものだった。

「……鈴ちゃん……」

「っ、なんでそんなお別れみたいなこと言うのさ!」

 かえちんは堪らないというように身を乗り出してくる。

 むぎゅ、と顔を両手で包まれた。口がタコのように尖るのを感じながら、私は上目遣いでかえちんを見上げる。

 深い皺が刻み込まれた眉、震える唇、濡れた瞳。

「あたしはずっと、この先もずっと鈴の友だちで、親友なんだから! 学校に来れなくなるくらいで終わるような関係じゃないんだからね!」

「か、かえちん……」

「そうだよ、鈴ちゃん。入院しててもわたしたち鈴ちゃんに会いに行くし、今日みたいに一緒に勉強会とかもしよう? 大丈夫、なにも変わらないよ」

「円香も……なんれそんらこと言っへふれるの」

 口が潰されているせいで、上手く発音ができない。

 そんな私にふたりは思わず、といったようにぷっと吹き出しながら、それでも隠しきれず涙を溜めて、両側から私をぎゅっと抱きしめてくる。

「鈴ちゃんが大好きだからに決まってるよ」

「どんな病気だろうが鈴は鈴じゃん。突き放そうとしないでよ、お願いだからさ」

「っ……ふたりとも……」

 無性に、泣きたくなった。というか泣いていた。

 ふたりの涙につられて、頬に数粒、まるで朝露みたいに雫が伝う。

 心配をかけるから、なるべく泣かないようにしてきたのに。

 どうも最近は、泣いてばっかりだ。

「ありがとう……私も、大好きだよ」

 ──私には、傷つかずに死を迎える方法なんてわからない。