ちがう、ちがう、と愁は幼い子どもがイヤイヤするように首を振る。
「なにかしてほしいわけじゃない。おれは、姉ちゃんがいなくなるのが嫌なんだ」
「……うん」
「おれの姉ちゃんは、姉ちゃんだけなのにっ……勝手に、いなくなるとか、ふざけんなよぉ……っ」
ベッドに顔を押しつけながら、押し殺すように啜り泣く愁の頭を撫でる。
「ごめんね」
痛覚はなくなっても心の痛みだけはなくならないのだな、と。
謝ることしかできなくて、私は軋む胸を押さえながら、ユイ先輩を見た。
うしろで戸惑ったように立ち尽くし、瞳を揺らす先輩。いくら先輩だって、こんな状況に遭遇したことはないだろう。本来はここにいるはずのない人なのだから。
人の生死に対面する。そんなときに上手い言葉をかけられる人なんていない。それが身近な人間であればなおさら、現実感はますます遠のいてしまうものだ。
だからこそ、いつか訪れる別れのときまで、周囲とどう接するのが正解なのか、私はずっとわからずにいる。
「──先輩。定期テストが終わって夏休みに入ったらすぐ、絵を描きに行きませんか」
「……っ、え?」
「どこでもいいんです。ふたりで、課外活動をしませんか」
しっとりとした夜空の瞳を向けながら、ユイ先輩が唇を引き結んだ。
見つめ合う静寂が、なんだか初めて先輩と出会った日に似ているような気がした。
私に『誰?』と言ったときの先輩は、今と同じような顔をしていた。
困惑。衝撃。戸惑い。
そんないくつもの感情が綯い交ぜになった、私が描く水彩画のような色。



