たとえ治らなくとも、病院にいれば延命治療ができる。なにかあったときはすぐに処置できるし、今日のように突然の体の変化にも対応が可能だ。
少しでも長く生きたいと願うのなら、今すぐにでも入院して、命を引き延ばすための治療に専念するのが最適解なのだろう。
けれど、それでも、嫌だった。
ここに──病院にいると、ひどく孤独を感じるのだ。
生きているのに生きていない。
毎日が、日々が、まるで年季を帯びた紙のように黄色く色褪せていく。
そういう場所だと、私はもう嫌というほど知っている。
「先生。もう少しだけでいいんです。八月からにしてください」
「……わかったわ。じゃあ予定通り八月からにする。でも、もしそれまでにまた今回みたいなことがあったら、そのときは折れないからね」
「っ、はい。ありがとう、先生!」
仕方なさそうに、けれどしっかりと了承してくれた先生は、かたわらでしゃくりあげている愁の頭を撫でた。この構図も、初めて見る光景ではない。
「愁くんもびっくりしたよね。でも、本当にひとりのときじゃなくてよかったよ。あのすごく綺麗な彼も……」
ふと思い出したように、ちらりと私を見て、先生がいたずらに口角を上げる。
「彼、例の子でしょう。鈴ちゃんの好きな子」
「っ……う、バレた」
「小学生のときから熱く聞かされてきた鈴ちゃん憧れの彼と、まさか会えるなんて思ってなかったわ。予想以上にイケメンでびっくりしちゃった」
さきほどの神妙さはどこへやら、隅に置けないわね、と私をくいくい小突く先生。
五年もの付き合いにもなれば、主治医とはいえ友だちのような親しさだ。



