「ええ。少し体調が悪そうだったから、保健室に連れてきただけよ。ちょっと疲れが出ただけみたいだし、しばらく休めば大丈夫だと思う。一応、先生からお家の方へ連絡はしてもらうけど」

 驚いた。

 小鳥遊さんを連れて行ったという友だちは、まさかの榊原さんだったのか。

「あ、そう……ごめん、疑って」

「もういいわよ。あたしが前にあの子をいびってたのは事実だし、自業自得って思うことにするわ。断じて今はそんなことしないけど」

 ツンとそっぽを向いた榊原さんの口調には、わずかに後悔の色が混ざっているような気がした。どこか思い詰めているようにも見える。

 いったいどんな心境の変化なのだろう。やっぱり女子は、よくわからない。

「じゃあ、また後で来るよ。体育祭が終わった頃に」

「そうして。その方があの子も落ち着くでしょうしね。ほら、わかったら戻るわよ」

 ……こんな子だっただろうか。

 さっさと俺の横をすり抜け、すたすたと歩いていく榊原さんを目で追いかけながら、ぼんやりとそんなことを思う。

 ──他人に興味がない。

 この言葉を俺に当て嵌めるなら、そこに『生き様』が付随する。他人の生き様にまったくもって、心底、関心がない。どうでもいい。

 なぜ、と訊かれても困る。それに理由なんて大仰なものはないのだ。

 たんに、自分以外の人間がこの世でどんな生き方をしていようが、俺にはなんの関係もない。そう思うだけ。むしろ、なぜそんなに他人に興味や関心を得られるのかの方が気になる。他人なんて、しょせん、他人なのに。