モノクロに君が咲く


 ちらりと周囲を見回してみるが、近くに小鳥遊さんの姿は見当たらない。

「あ、け、怪我されたんですね!」

 ようやく俺の足の怪我に気がついたらしい彼女が、慌てたように立ち上がる。

「いや、それよりさ。小鳥遊さん、知らない?」

「へ? た、小鳥遊さん……?」

「背が小さくて、髪が長くて、色白な子。あと……明るくて、元気」

「ああ!」

 それで伝わってしまうのだから驚きだ。外見的特徴がありすぎるのか、はたまた小鳥遊さんの存在感が強いのか。少し考えて、どちらもだなと結論付ける。

「鈴先輩なら、さきほど保健室に……」

「保健室?」

「は、はい。なんだか具合が悪そうで、途中でお友だちの方が連れていかれました」

 それより足の怪我を、とおそるおそる手当てを施そうとする女子を制する。

 小鳥遊さんを先輩と呼んだからには、この子はきっと一年生だろう。

 なるべく怖がらせないように気をつけながら、穏やかな声音で「大丈夫」と諭した。

「保健室、行くから」

「え? で、でも、先生いませんよ?」

「平気。ありがとう。暑いけど、仕事頑張って」

 それ以上引き止められないように、俺はサッと踵を返した。

 ……具合が悪い、と彼女は言った。

 昼間は元気そうだったのに、午後をまわって熱中症にでもなったのだろうか。

 いつも明るく元気なイメージはあるが、小鳥遊さんはああ見えて、あまり体が強くないのだろう──と思う。憶測に過ぎないが、ときおり俺でも心配になるくらい顔色が悪いことがあるし、定期的に早退していたりもする。

 つねに笑顔を絶やさないから、なんとなく誤魔化されてしまいそうだけれど。