中心にそびえる桜の大木の麓は、やはり木陰になっていた。
全員もれなくジャージ姿だし、多少は汚れても構わないからと、アスファルトの地面に直接座ることにする。ベンチもあることにはあるが、あちらは日光に近くて暑い。
「思ってたより涼しいね。影なだけでこんなに体感温度違うんだ」
「そうそう、根元はまったくお日様当たらないから。夕方はもっと涼しくなるよ」
「というか屋上庭園ってこんな感じだったんだね。あたし何気に初めて来たわ」
きゃいきゃいと楽しそうに話す女子たち。なんとも無邪気に相好を崩している小鳥遊さんを眺めていると、つい俺まで笑みを誘われそうになる。
実際少し笑っていたのか、隣に座る隼が実にげんなりとした顔で俺を見てきた。
「視線がクッソ甘え。なんかおまえが笑ってると鳥肌が立つんだけど」
「ひどい言い草。俺だってたまには笑うよ」
隼いわく、俺は元来『表情筋が死んだ男』らしい。
そんな俺がこんなふうに他人の会話に和んでいる時点で、幼なじみとしては気味が悪いんだろう。心底、余計なお世話だが。
でもたしかに、以前は有り得なかったことだなとも思う。
人は不思議だ。胸に抱く気持ちひとつで、こんなにも変わってしまうのだから。
「あれ、小鳥遊さん昼飯それだけなの?」
不意に、隼が尋ねた。
その視線を追うように小鳥遊さんを見る。彼女の手に握られていたのは、飲むタイプの簡易ゼリー食。栄養補助食品、という言葉が脳裏をよぎる。
「私のお昼はいつもこれですよ。今日はね、りんご味なんです。お気に入りで」
むふふ、と満足気に見せびらかす小鳥遊さん。
隼は「こらこら」と苦笑いを零す。



