「ササッと行くんだよ、ササッと。素早くな。まあおまえには無理だろうけど」
「馬鹿にしてる」
「おう、してる。しゃーねえから買ってきてやるよ。おにぎりでいいか」
「うん」
「具はなんでもいいよな」
やはり究極の世話焼きだ、と俺はぼんやり思う。
バスケ部のエースらしく筋肉質でなかなかガタイのよい体型をしているのに、スルスルと人混みを掻き分けてなんなくおにぎりを強奪していく。
その様子を遠くから眺めながら、俺は素直に感心する。
俺には絶対にできない。
この人混みに飛び込んだが最後、四方八方から押し潰されて終わる。
出てきた頃にはすりおろし大根か薄切り大根になっているだろう。間違いなく。
「体育祭んときくらい、みんな弁当持ってくりゃいいのにな」
「隼みたいに自分で作れる人は早々いないから」
やがて戻ってきた隼がぶらさげる買い物袋のなかには、おにぎりの他にもいろいろと余分なものが入っていた。緑茶に煎餅にチョコレート。そしてアイス棒ふたつ。
「これ、おまえの奢りな。煎餅とアイス。パシリ代ってことで」
「……べつにいいけどさ」
昆布とおかかのおにぎり。麦茶ではなく緑茶。パフ入りの一口チョコレート。
なんでもいいとか言っておいて、俺の好みを完全に把握したチョイスだった。
さすが無駄に付き合いが長いだけある。
「どこで食うよ? 教室? 中庭?」
「混んでないとこ」
「んなとこあるかぁ?」
「こういうときこそ屋上庭園でしょ」
はあ、と隼が曖昧に相槌を打つ。しかしすぐに「いや待て」と鷹揚に腕を組んだ。
「閉まってんだろ、今日。わりとあちこち閉鎖されてるし」



