モノクロに君が咲く


 突然流れ込んできた水をなんとか飲み下しながら、俺はじりっと奴を睨みつけた。

「もっと優しくできないわけ」

「うるせーよ」

 小中高と同じ学校で過ごしてきただけあって、言動にまったく遠慮がない。

 いわゆる幼なじみ、腐れ縁というやつなのだろう。だが、俺にとっての隼はどちらかというと世話焼きな兄とでも言うべきか。まあ、それに準じた存在だった。

「あのなぁ、熱中症でいちばん怖いのは水分不足なんだからな。脱水症状は酷くなると死ぬんだぞ。わかってんのか、おまえ」

「それもこれもすべて、暑いのが悪いと思う」

「自然環境に文句つけんなよ。ほら、飯食いに行くぞ。弁当は?」

「ない」

「……だと思ったわ。じゃあ購買だな。今日は食堂やってないらしいし」

 まさか金は、と疑わしそうな目を向けてきたので、俺はポケットからICカードを取り出してみせた。現金はないが、こと日常においてはすべてこれで賄える。

「交通機関もコンビニも自販機も、これ一枚。なんて便利な時代なのかな」

「なら買えよ。自販機で」

「売り切れてた」

「だめじゃん」

 よろよろと立ち上がり、隼にもたれかかりながらも歩きだす。

「ほんっと……なんでこんな暑いなか運動しなくちゃいけないの……」

「夏場の屋上もたいして変わんなくね?」

「いや、変わるね。むしろ天と地の差。あそこはわりと涼しいんだよ」

 それに、部活が始まるのは夕方からだ。

 長大な桜の木のおかげで大部分が日陰になっているし、アスファルトにありがちな太陽の照り返しもない。実際、そこまで暑さは感じないのである。