描いてみたいと思うのに、どうにも嵌らない。一向に掴み切れずにいる。力量が足りないのかと疑ったりもしたが、きっとこれはそういう問題でもないのだろう。
「小鳥遊さんは、俺の常識に当てはまらない。それがすごく、面白いよ」
「え~……それ、褒めてます?」
「さあ、どうかな」
きっと小鳥遊さんの色がわからないのは、彼女がモノクロの世界に似合わないからだ。白と黒、そしてその中間色ではとても表現しきれないほど、鮮やかだから。
「……うん。まあ、どっちでもいっか」
「そう。どっちでもいい。そこは重要じゃないからね」
「はい。それで話を戻しますけど……私、ユイ先輩が運動得意じゃないことくらい知ってますよ。知った上で見たいんです。むしろ、そんなユイ先輩が気になる」
「物好きだね」
「どんな過程でも結果でも、先輩は変わらず先輩でかっこいいから。それこそ私にとっては、徒競走のゴールの順番なんてさして重要じゃありません」
なんてことないように言っているが、相当ハイレベルな口説き文句だ。
思わず小鳥遊さんを凝視してしまいながら、俺は鈍った思考をフル回転させる。情けないことに、こういうとき、なんと返すのが正解なのかわからない。
『大好きです! ユイ先輩』
──初めて出会ったときから、小鳥遊さんは躊躇いもせずに好意を伝えてくる。
だが、一方で『付き合ってほしい』とは一度も言われたことがない。まるで挨拶のように『好きだ』と伝えてくるばかりで、結局この一年、なんの発展もなかった。
好きだから、付き合う。
そのイコールが成立していなければ、気軽に付き合ってはならない。



