小鳥遊さんは長い睫毛に縁どられた双眸をぱちくり瞬かせる。それからひどく不安と怪訝を綯い交ぜにしたような表情をして、一歩大きく後ずさった。
「……今、私の隣にいるのって、本物のユイ先輩ですか?」
「なに言ってるの、どこかに頭ぶつけた?」
「あっ、ユイ先輩だ」
いったい今のどこで俺だと判別したんだろう。
「先輩って普段口数少ないのに、私の前だとたまに別人みたいな鋭い切り返ししてくるじゃないですか。結構な切れ味でバッサリと。だからそうしおらしくされると、どうにも調子が狂っちゃいますね。あはは……」
「……そう?」
「自覚ないんですか。や、それもまた先輩らしいですけど」
まあたしかに言われてみれば、小鳥遊さんの前では自然と言葉が出るかもしれない。
他の女子やクラスメイトには、基本的に「うん」や「いや」しか返さないのに。
例外なのは、幼なじみの隼と──ああ、榊原さんくらいか。我ながらわかりやすすぎるな、とは思うが、こればっかりは無自覚なのでどうしようもない。
「なんというか……小鳥遊さんは、たぶん、興味深いんだと思う」
「へ?」
「先が読めないから」
人を見ると、大抵その人がどんな色かわかる。描くならこんな色かと、瞬時に変換される。あの色とあの色を混ぜこんだような人だなと、俺の他人に対しての第一印象はすべて『色』で定まっているのだ。
そして頭のなかで変換された色味を、俺はこの六年、鉛筆一本で表現してきた。
だが、小鳥遊さんは、そもそもの『色』がわからない。
初めて会ったときから今日までずっと。



