「よーっす」

 放課後、いつものように屋上庭園でひとり絵を描いていると、珍しい来客があった。

 絵の具を筆先でいじっていた手を止めて振り返ると、右手に購買のビニール袋を下げた隼がのらりくらりと歩いてくるところだった。

「……?」

「んだよ、その奇妙なものを見る目は。ひとり寂しく部活中の部長さんに差し入れ持ってきてやったんだろ。幼なじみの親切心に感謝しろよ」

「自分の部活はどうしたの」

 バスケ部の隼は、運動嫌いな俺とは違って、全身が筋肉のみでできているんじゃないかと思うほど引き締まった体をしている。実際、体脂肪は一桁らしい。

 グラウンドの方からは、現在会進行形で各部が練習する声が聞こえてくる。休みではないはずなのになぜ、と思っていると、心底呆れたような顔をされた。

「おまえ、今何月だと思ってんの? 十月半ばだぞ。受験生はとっくに引退してるっつーの」

「引退……」

 ああそんな概念があるのか、と俺は思いもしなかった返答に目を瞬かせた。

 まったくもって考えたことがなかった。

「おまえだっていつまでも部長してないで、本当は受験に専念しないといけないんだよ。部員ひとり見かけねえ時点で、そんな話し合いも行われてないのは明白だけどな」