他ならぬ私だって、愁が余命宣告をされた子と付き合ってしまったら、口を出さずにはいられないだろう。傷ついてほしくない。傷つかずに済むのなら、と。
とりわけユイ先輩は、お母さんを亡くしている。
その傷を知っているお兄さんからすれば、いっそ青天の霹靂だったはずだ。このユイ先輩が彼女を作るだけでも驚きなのに、まさか、と私なら絶句してしまう。
「それから、さっきの沙那先輩の気持ちも」
「っ……なんで。鈴は俺じゃなくて、榊原さんの味方するの?」
「味方とかじゃないですよ。単に気持ちがわかるだけです。あそこまで直球に切り込んでくるとは思いませんでしたけど……」
まあ、沙那先輩らしい。普通の人なら踏み込めないところまで、土足で踏み込んでゆける。そんな強かなところは、いっそ見習いたいとすら思えるほど。
相手を思いやる気持ちが強いがあまりエスカレートしてしまいがちだけれど、きっとそれは沙那先輩の短所であり、また長所でもあるのだろう。
ただ、奇しくも本人に自覚がないから、なおのこと踏み込まれた側は唐突なパーソナルスペースの侵害に困惑してしまう。
けれど、それは得てして、なにかを変えるきっかけにも繋がるのだ。
意図された悪でも、偽善じみた優しさでもない。なんの殻も被らない?き出しの彼女の心が訴えてくるからこそ、心に届くものがある。
「……私もね、気づいてたんです。先輩が未来のことを考えていないことは」
「そんなの考える必要ないでしょ」
「いいえ。それは現実逃避って言うんですよ、ユイ先輩」
とはいえ、先輩の場合は『考えたくない』という逃避とは異なるのだろうけど。



