「あ、あなたが進路のことを考えないのは、小鳥遊さんのことがあるからでしょっ!」
どくん、と──心臓が、とてつもなく嫌な音を立てた。
「未来のことなんかどうでもいい? そんなわけないじゃない! 自分がこの先どの道を歩いていくのか、なにをして生きていくのか、それを考えずにいられるほど、あたしたちはもう子どもじゃないのよ! あなたはただ、逃げてるだけ!!」
──私も薄々気づいていたことを、沙那先輩が激情に乗せて言い放つ。
それは涙声だけれど、慟哭に近いものだった。
ひりひりと、いつもと同じはずの病室の空気がやけに冷たく打ち震えた。
「小鳥遊さんの存在が大事なのはわかる。でも、彼女を言い訳にしてあなたがまた人形に戻るのは見てらんないの。そんなの、小鳥遊さんが気の毒だわ!」
「……はあ? 鈴を、言い訳に? 俺が?」
「そうでしょ? こんなこと言いたくはなかったけど、あなたは小鳥遊さんがいない未来のことを少しも考えてないのよ。だから、そんなに悠長にしていられるんだわ」
シン、と水を打ったように静まり返った。
ユイ先輩の顔からいっさいの表情が抜け落ちるのがわかる。あまりにも冷えきった鋭い双眸が、本当に人形のそれみたいで、背筋がぞくりと震える。
「──……もう、出ていってくんない」
「っ……」
「俺がどんな未来を歩もうが、あんたには微塵の関係もない」
……先輩が本気で怒っているところを、私は初めて見たかもしれない。
「どんなときも、なにがあっても、俺の未来には鈴がいる。それはこれからさき、なにがあってもずっとだ。次同じこと言ったら、俺は君を一生許さない」



