モノクロに慣れた目が、彼女の輝きに負けて溶け落ちてしまいそうになる。
でも、それでも、見ないわけにはいかないのだ。残された時間を考えると、一分一秒、刹那たりとも無駄にしたくはない。
もっと早く、自分の気持ちに気づいていれば。
もっと早く、鈴の気持ちに向き合っていれば。
そんな『たられば』を思ったところで仕方ないとわかっているはずなのに、どうしても考えずにはいられない。どれだけ平然と振舞っていても、俺の弱い部分は着実に綻んでいく。まるで、ぼろぼろと乾いた灰屑が、奈落の底に落ちていくみたいに。
「ユイ先輩」
唐突に、鈴のよく通る綺麗な声が滑るように空気を流れて、俺の耳を突き抜けた。
「生きてくださいね」
シン、と。葉擦れの音すら鮮明に聞こえるほどの静寂が落ちる。
え、と、声が返せたのかすらわからなかった。
鈴は微笑んでいた。ただただ、いつも通りに。けれど、その表情は今にも泣きそうで、ようやく我に返った俺は弾かれるように地面を蹴って駆け寄った。
「っ、鈴? いきなり、どうしたの」
「先輩は優しい人です。本当に、心の底から。だからこそ、きっといろいろなことを考えて……私の理解が追いつかないところまで考え尽くして、ひとりで背負い込んでしまうんでしょうけど。──でもね。だけどね、先輩」
不意に鈴が立ち上がり、大きく背伸びをして俺のことを抱き寄せた。
身体が前方に傾くのを感じながら、頬に鈴の髪の感触を覚える。呼吸だけでなく心拍すらも止まりそうになって、俺は石化の魔法をかけられたかのごとく硬まった。
「私は、ユイ先輩が生きているこの世界が大好きなんです」
「……す、ず」



