鈴は本当に小さなことですぐに顔を赤くする。その感覚がいまいち理解できなくて不思議に思いながらも、その初心な反応が可愛くてつい笑みがこぼれる。
「じゃあ、行くよ」
鈴を乗せた車椅子をうしろから押して病室を出る。すると、ちょうど隣の病室から鈴の主治医の先生が出てきたところだった。たしか、伊藤先生といったか。
こちらに気づいて、彼女が軽く手を挙げる。
「あら、鈴ちゃん。彼氏くんも、こんにちは」
「こんにちは。……すみません、少し散歩に出てきます」
「はいはい、了解。今日は朝から調子よさそうだし大丈夫だと思うけど、なにかあったらすぐにナースコール押してね。もしくは近くの先生に声をかけて」
「大丈夫だよ、先生。今日は本当に元気なんです」
普段は気づかないが、鈴が入院しているこの大学病院には、通路の至るところにナースコールが設置されている。それだけ多くの患者が入院しているのだ。
もちろんそのなかには、鈴のような難病を抱えた人も少なくない。
「じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
先生に柔和な笑みに見送られて、俺は再度車椅子を押していく。
しかし、途中通りかかったプレイルームから複数の「鈴ちゃーん!」という子どもの声が聞こえてきて、俺はふたたび立ち止まることとなった。
「あ、やっほーみんな」
「やっほー鈴ちゃん! どこ行くのー?」
「お散歩お散歩。このお兄ちゃんに連れていってもらうんだー」
まだ小学校低学年くらいの子たちが、パタパタと駆け寄ってくる。



