しかし、ふたたび足を踏み出そうとした刹那、パシッと腕を掴まれた。驚きながら振り仰ぐと、そこには背筋にぞっと寒気が走るほど冷え切った瞳があった。
「な、なに?」
「……どうして結生が枯桜病のことを調べる? まさかとは思うけど、おまえの付き合ってる人って──」
なんでこうも察しがよいのだろうか。
心底げんなりしながら、俺は掴まれた腕をほぼ力任せに強く振り払う。
「だとしたら、なに?」
「っ……結生! わかってるのか、あの病気は……!」
「死ぬ病だよ。知ってる。……俺の彼女も、もうそう長くないって言ってた」
ハル兄が目を剥いてはっと息を呑んだ。
「でも、だからなんなの。もうすぐ死ぬからって、なんでそばにいちゃいけないの。好きなのに、一緒にいたいのに、なんでそうやって死ぬことしか考えないわけ」
わからないのだ。
鈴も、俺から離れようとした。
あれだけ好きだと伝えておいて、これだけ俺を好きにさせておいて、俺が病気のことを知っただけで距離を置こうとした。あのとき、なかば強引にでも引き留めていなければ、きっと鈴はもう今ごろ俺の前から消えていたんだろう。
でも、俺は、知っている。
そうして置いた距離は、後々、拭いきれない後悔として心を蝕んでいくことを。
だから、絶対に譲らない。譲るわけにはいかない。
誰になにを言われても。それがたとえ、鈴からの願いだとしても。
──俺は、二度と同じ過ちを犯すわけにはいかないのだ。
「……もう、母さんのときみたいに騙されない。後悔もしない。もうあの頃みたいな、なにもわからない子どもじゃないから。頼むからほっといてよ」



