「できたよ。だからなに。ハル兄になんの関係があるの」
え、とハル兄がわかりやすく硬直した。父によく似た切れ長の目を限界まで見開いて、まじまじと食い入るように俺を見つめてくる。
「嘘。結生が、彼女? あの結生が?」
「俺のことなんだと思ってんの」
なぜか俺は、周囲から『人形』だとか心のない人間だと捉えられることが多い。
家族でさえこうだ。だから、そうなのだろうと思っている。たしかに感情の起伏は少ない方だと自負しているし、実際に並大抵のことでは心を揺らすことはない。
……なかった。これまでは。
「もういいから、退いて。離れに戻る」
「ちょっと待って、詳しく聞かせてくれないの?」
「聞かせる必要性を感じないからね」
立ち塞がるハル兄を押しのけて、俺はさっさと廊下を歩いていこうとした。
けれど、ふと思いたち立ち止まる。
迷いながら振り返ると、ハル兄はきょとんとした顔でこちらを見ていた。なんだかんだ言っても実はそんなに興味ないのか、と拍子抜けする。
結局、この男も春永の血を引くものなのだ。
「ねえ、ハル兄」
「なんだい」
「……枯桜病って、知ってる?」
ふ、と。ハル兄の顔から表情が掻き消えた。まるで、帳が落ちたかのように。
「知っているけど。それがどうかした?」
「……べつに。枯桜病のことを調べてて、ちょっと気になっただけ」
我ながら無意味な問いだった、と俺はふたたび踵を返そうとする。
それを訊ねたところで、ハル兄が治療方法を知っているわけでもない。
俺はいったいなにを期待したのか。



