どうして俺は、こうなんだろうか。この家にいると、やることなすことすべて、俺を取り巻くすべてがままならない。本当に、なにもかも、腑に落ちない。
もやもやとした気持ちを抱えたまま、廊下の角を曲がった。しかし直後、突然目の前に壁が現れて俺は顔面から衝突した。考えごとのせいで反応が遅れたらしい。
「うわ、びっくりした。結生か」
「っ……ハル、兄」
次男の千代春。長男とは年子で、俺とは九つ離れている兄だ。
存在からどこか優艶な雰囲気を纏うハル兄は、こんなにも暑いというのにしっかりと和装を着こなしていた。うちの人間は普段から和装なのだ。俺以外。
「なんだか久しぶりな気がするな。元気だったか、結生」
同じ家に住んでいて、そんな問いかけが出てくること自体おかしい。
うちの異常さは、こういうところだ。
お家元なだけあって、日頃から多くの人間が出入りする。家族以外の人間が、平気で敷地内を歩いている。だからこそ、この家は気が休まるところがない。
俺が普段からアトリエに籠りきりなのも、こういった特殊な家庭環境が背景にある。
「というか、結生がこっちに出てくるなんて珍しいな」
肩下まで伸ばした癖のない黒髪が、縁側を通り抜けた夏の風がさらりと攫って流れる。それを横目に一瞥しながら、俺はひとつ息を吐いた。
「……ちょっと喉が渇いたから」
「ああ、なるほどね。ちゃんと水分は摂らないとだめだよ。脱水症状になるから」
「……うるさいな。そっちこそ、稽古中じゃなかったの」
「うん、今さっき終わったところ」



