「家族には、またべつの役割があんのかもな。姉ちゃんが安心して帰って来れる場所として、姉ちゃんの幸せを見守る役割みたいなのがさ」

「っ……愁」

「だから、いいよ。おれのことは気にしなくて。たとえどう転がったとしても、姉ちゃんが幸せになれるなら、それが正解なんだ。あの先輩も、姉ちゃんの病気のこと知ったうえで姉ちゃんと付き合うって言ったんだろ?」

 私は一瞬の間の後、こくりと顎を引いた。

 そうだ。先輩はすべてを知ったうえで、私と一緒に出かけてくれた。

 この間のように倒れてしまう可能性もあったし、ふたりきりで出かけるなんてきっと怖かったはずなのに、ちゃんと向き合ってくれた。きっとそこに嘘はない。

「なら、それなりの覚悟があるってことじゃないの。知らんけど。でもま、なんにせよそれを受け取っちまった姉ちゃんも、相応の覚悟を持つ必要があるんじゃない」

「う、ん……」

「まあもーすぐ入院だけど」

 ほら立って、と手を差し出された。

 ユイ先輩の繊細な白魚のような指先とは違う。幼かった頃の小さく柔い餅のような手でもなく、角ばっていて無骨な、大人になり始めた男の子の手。

 ──本当に、いつの間にこんなにも、大きくなってしまったのだろうか。

 私はおずおずとそれを掴んで立ち上がりながら、寂しい気持ちを押し隠す。

「先輩ね、お見舞い来るって言ってたよ」

「へえ。最悪」

「あ、そういうところは変わんないんだ」

 帰り際。言い忘れていた入院のことをユイ先輩に伝えたら、どうやらそのことすらも知っていたらしく「お見舞い行くから」と真顔で宣言されてしまった。

 正直なところ、入院中はあまり会いたくない。