だから、先輩とはお別れしようと決めた。先輩がくれた思い出に浸りながら、ゆっくりと死を待つつもりでいた。それだけで充分、私は幸せに死ぬことができるから。
……できる、はずだったから。
「なるほど。俺を傷つけないために、言わなかったんだ」
「っ……それもあるけど、私が病気だって知ったら、優しい先輩は絶対に気にしてくれるでしょう? そういうのはいっさいなしでユイ先輩と話していたかったんです」
私は、先輩に……ユイ先輩に会うために、月ヶ丘高校に入学した。
もう自分が長くないとわかったうえで──否、だからこそ、死ぬ前に好きになってしまった人へ少しでも近づきたくて、わがままを言った。
ただ、会いたかった。会って、彼の世界に触れたかった。
でも、それだけ。
付き合いたいとか、卒業したいとか、そんな大それた望みは抱いていない。
ただユイ先輩の隣で、先輩と一緒に絵を描けるのなら、それでよかったのだ。
「小鳥遊さん。いや、──……ねえ、鈴」
ドクン、と心臓が強く胸を打つ。
初めて呼ばれた名前。
ユイ先輩が私の名前を覚えていたことに驚いて、先輩のその口が私の名前を紡いだことに驚いて、ずるい、と喉の奥から震え切った声が漏れる。
「それでも俺は、鈴が好きだよ」
「ユイ、せんぱ……」
「知ってしまった以上は、今まで通りとはいかないけど。俺はきっと自然と鈴を甘やかしちゃうし。そばにいるからには、より大事にしたいと思うから」
でもね、と。
いつもよりワントーン低い声を落としたユイ先輩は、私をそっと抱き寄せた。



