その確固たる意思を前に、私は二の句を継げなくなってしまった。
どうして、とそれ以上追及できなかったのは、さきほど先輩のお母さんの話を聞いてしまったからだ。だって先輩は、もう『死』がどんなものか知っている。
知っているうえで──否、知ってしまっているからこそ、なのか。
「さっきの君の言葉を借りるけど、たとえどんな病気を患っていようが小鳥遊さんは小鳥遊さんでしょ。変わりようがなく。そして、君は今、生きてる。生きて、俺の前にいる。なのに、どうして離れなきゃいけないの」
「っ、でも、私は……」
そう遠くない未来で、この世界からいなくなってしまうのに。
「──……臆病だね、君は」
仕方なさそうな、それでいて困ったような声音だった。
けれどユイ先輩は、まるで駄々をこねる子どもを宥めるように私を優しく撫でて、ふわりと花笑む。皮肉にも、これまで見せた表情でいちばん穏やかな笑顔で。
「どうしてそんなに怖がるの?」
「い、いなくなるからに決まってるじゃないですか……っ」
「そうだね。でも、今じゃない」
「せ、先輩のそばにいれるのは、本当にあと少しだけなんですよ。そんな未来が決まってるのに……傷つけるってわかってるのに、そばになんかいられません!!」
好きならば、なおのこと。
一緒にいればいるほど、その時間が長引けば長引くほど、残されるユイ先輩の傷はより深いものになってしまう。
もちろん私だってつらいけれど、これから先、何年何十年の時をこの世界で生きていかなければならないのは先輩の方なのだ。



