俺と羽琉が生まれた土地は、かつての日本ではなかった。古代ローマの騎士団の都市であったクサンテンの町に、俺たちは生まれた。
その時の名は、マリアとタラニスというものだった。
だがローマに戦禍の火が訪れ、戦争が始まった───。
俺とマリアの父はその戦乱で、二人とも戦死した。父が死んでしまった後、残された俺とマリア、そして二人の母親たちの生活はとても苦しくなっていった。
次から次に借金が溜まっていき、やがて二人の母は酒に溺れるように豹変してしまった。
そんな俺は、ある冬の寒い日、母親に捨てられた。蹲って死にそうになっていた俺を救ってくれたのが、マリアだったのだ───。
決して広くなかった町で、二人は出会った。
互いの父がローマの騎士団に入っていたため、すぐに打ち解けた。二人で何とか生きていくために、必死になって働いた。
「タラニス、こんなに少ないお金でご飯もらえるのかな」
羽琉、ではなくてマリアが不安そうに呟いた。
どれだけ休みなく働いたとしても、当時十三歳の俺たちに大金なんて貰える訳がなかった。
「でも、今日の夜は何とかなりそうだ。あの優しいおじいさんのお店でパンを買おう」
優しく、語りかけるようにマリアを安心させた。月明かりに照らされた二人の顔は、炭で黒く汚れていた。お互いの変な顔に笑いが弾けた。
「「ふっ、あはははははっ」」
お互いが辛く苦しかった。それでも二人で、その気持ちを分け合った。
そうすることで、自分は一人ではないのだと安心出来たのだ。
まだ小さくて柔らかな手を握り合って、歩き始めた。その日の夜は、一つのパンを二人で分け合って食べた。
***
夜が明け、朝が来た。一枚の薄いわらの布団を二人くるまって眠った。眠れるだけ、マシなほど夜を超すことが難しかった。俺の小さくて弱い体では、マリアを温めてあげることさえ出来ない。