「羽琉ー、飯買いに行こ」


 蒼佑との初めての出会いから、3ヶ月。それは本当に、あっという間だった。蒼佑が私の席まで当たり前のようにしてやって来る。

 私たちは同じ中学に進学し、同じクラスになった。彼は元々、その整いすぎている顔立ち、そして綺麗な容姿から学校内でもすでに沢山の女の子の的になっていた。

 それでも彼は、いつも独りぼっちの私と一緒にいてくれる。みんなからの偏見や視線を全部無視して、彼は彼の思うままに存在している。

 それが今の私には、かっこよく映って仕方がないのだ。私は今までずっと自分の檻に閉じ籠もって人と関わらないようにして生きてきた。

 自分の運命をどこかで理解して受け入れようとしていたような気もするし、実は理解出来てさえいなかったんじゃないかと今では思う。


「羽琉?どうした、早く行かないとパン売り切れちまうぞ」


 蒼佑に背中を押されながら私は考えていた。


「蒼佑は…、何かに心を動かされたこと、ある?」

「何だよ急に…」


 そう聞かれて、嫌そうに顔をしかめながらも蒼佑は考えてくれるようだった。


「……ずっとずっと昔に、たった一人の幼馴染を好きになったこと…、くらいかな」


 “ずっとずっと昔”

 それはいつのお話なんだろう。胸がズキッと強く痛んだ。


「凄く優しくて、強くて、俺がその頃抱え込んでいた苦しい気持ちや辛い気持ちも全部綺麗に流してくれるような、そんな子だった」


 彼は記憶を辿るように、でも真っ直ぐに私の目を見て告げた。その瞳の奥に宿る炎は彼の優しさと自由さを、私に思わせた。


「素敵な子だね…」


 胸の突っかかりを覚えながら、微笑んだ。


「ああ、そうだったかもな」