私のお兄ちゃんは、少し変わっている。

 今だって、凄く大切そうな瞳で私を見つめて私を、幸せにするだとか、守って見せるだとか、そんな訳の分からない言葉を紡いでいる。

 そしてそれはどこか、私ではない人に向けられた言葉のような気もする。それが少し寂しいな、と思ったのは私だけの秘密。

 いつもお兄ちゃんに対してトゲトゲしい口調で接してしまう私だけれども、本当はただ素直になれないだけだ。

 お兄ちゃんのこと、凄く頼りにしてるし、そして何より私のお兄ちゃんはかっこいいんだ。


「お兄ちゃん、紗英の事泣かしたら許さないんだからね!」

「ははっ、うん。絶対に泣かしたりなんかしないよ」


 冗談で言った言葉なのに、お兄ちゃんはいつも真に受けて凄く真剣に返してくれるんだ。それが少し、というかとても嬉しかったりもする。

 私はまだ幼くて、お兄ちゃんの考えてることなんて想像がつかないけれど、多分お兄ちゃんの心の中は凄く優しい言葉で溢れている。

 そう、確信出来る。

 ……だって、私の心はお兄ちゃんからもらった温かい言葉で優しく包み込まれているのだから。凄く、温かいのだから。

 私の心の中には、また別の誰かがいるような気がする。そういう気がしてならないんだ。そしてその私の心の中にいる人は、とても穏やかに眠っているの。

 お兄ちゃんの言葉を聞いて、凄く幸せそうな寝息を立てて眠っているの───。


Side End.