タラニスは明るい光に、目が覚めた。そこにはもう、あの綺麗な森はなくなっていた。あの信じられない出来事は果たして本当のことだったのか。

 だが、竜と戦って傷ついた体は、あの泉の水を飲んだおかげで治っていた。それが何よりの証拠だろう。

 ドクドクドクドク………。ドク…ドク……ドク。

 心臓が動かなくなってきていた。俺はもう、ここで死ぬ。初めての死だった。でも不思議と怖くはなかった。ただ1つ気がかりなのはマリアとの約束が守れそうにないということだけだった。

 ごめん、マリア。ごめん、アルベスさん。

 ごめん、アレッサンドロ。相談もせず、このことを告げもせず、出立してしまって。きっと今、俺がいないことに凄く心配してくれているだろうに……。

 来世では俺はまた人間になれるだろうか。これから俺は、15歳を迎える度に死んでしまう。そしてまた何かに生まれ変わる。

 ドク……………ドク…………………。
 …………………………………………。

 俺の心臓が、止まった。

 さよならも告げずにいなくなってごめん。本当に、ごめん。


***


 マリア、羽琉は100万回生きていない。100万回生きたのは本当はタラニス、蒼佑だった。彼女は100万年間、常に彼の側にいた。側で見守っていた。蒼佑が前に、幼馴染を好きになったと言った。

 それは羽琉ではないけれど、羽琉そのものだった。だって羽琉は、昔マリアとして生きていたのだから───。ここでもまだ、ピンとこないだろうか。蒼佑は100万回、終わらぬ命の輪廻を繰り返した。その側に、羽琉は姿形を変えながら、100万年もの間生き続けていたのだ。

 羽琉は全てを、思い出した。

 自分が歩んだ1度目の人生のことを。


『あの者は死んだ。だから君は、早くこの地から去りなさい』


 タラニスに天罰を与えた神が、マリアにそう言った。マリアはずっと、暗い暗い森の中で蒼佑の帰りを待っていたんだ。