「嫌だよ」

「…っ…マリア、俺の言うことを聞いてくれ。竜討伐に行くなんてそんなの、危険すぎるのは分かっているだろう」

「だって、タラニスが死んじゃうかもしれない…!そしたらもう2度と会うことが出来ないんだよ!?そんなの嫌だよ!」


 初めて、マリアがこんなにも取り乱している姿を見た。初めて、マリアに怒られた。それだけ、マリアに心配をかけて不安な気持ちにさせてしまったということだ。


「そう……だよな」

「でも、約束してくれ。この旅には一緒に来てもいい。でも竜討伐の時はマリアとはもうそこでお別れだ」


 俺の言葉に、はっとした顔をしながらもマリアは分かった、と言ってくれた。竜討伐には1人で行って、1人で死ぬか死なないかで帰って来ると思っていた。本当は1人で行くのが怖かった。誰にも知られずに死ぬのが嫌だった。


「マリア……来てくれてありがとう。……本当は少し不安だったんだ」


 マリアは泣きそうな顔をしながら、俺の手をぎゅっと握った。そして俺たちはまた、歩き出した。何時間も足を動かしていた。そうしたら竜の棲み家に確実に近づいていっていた。


「タラニス、もしこの戦いで勝ったら、私のお願いを1つだけ聞いてほしい」


 マリアはそう言って微笑んだ。

 その言葉からは『必ず生きて帰ってきて』というマリアの強い意思が込められているのを悟った。


「ああ。きっと生きて帰る」

「約束だよ」


 俺たちは、必ず生きて帰ってくるという約束を交わした。この約束は必ず守らなければならない。マリアのためにも自分のためにも。

 別れの時が近づいてくる。歩く速度が2人ともだんだんと遅くなっていった。