今日も1人の部屋で目を覚まし、1人の食卓でご飯を食べ、誰もいない1人の部屋に、さよならを告げる。
苦しくはない。悲しくもない。ただ全てが
“どうでもよかった”
何のために、誰のために、私は現在ここにいるのか。何を求めて、何を信じて、終わりのない命を繋いでいるのか。全てがどうしようもなく分からない。
『生きてさえいれば、いつか幸せだと思う日がきっと来る』
『辛いことがあったら、その分、幸せだった日々を思い出すといい』
いつか、誰かに言われた言葉が私の鼓膜に虚しく響いた。色んな時代の色んな国で生きてきた。何かを得ることよりも失うことの方が多いこの世界で、沢山の人と出会った。怖くて眠れない夜もあれば、死にたいと嘆く夜もあった。
でも、そんなことは許されていないのだ。誰が、とは言わない。自分の奥底に眠った「記憶」は、引きずり出しても思い出すことが出来ないほど重く鉛のように私の心にのしかかっていた。
いつも通りの朝が来る。私は今世では15歳の中学3年生。生まれて、消えてをずっと繰り返している。私は“死ぬ”のではない。
もともとこの世界にいなかったモノのように、
“消える”のだ。
昔、透明人間になりたいと思ったことがあった。みんなには見ることの出来ない自分が、自由に、透明になって楽しんでいる姿が瞳の奥に映るのだ。
誰にも邪魔されず、自分の思うままに生きる人に私はまだ出会っていない。
学校へと向かう坂道を重い足取りで登っていく。今は夏だというのに、少し肌寒い。私は半袖の制服から出ている腕を擦りながら、路地裏に寄り道をする。私の足音に気づいたのか、どこからか白くて綺麗な毛並みをした猫が現れた。