やがて傷ひとつないとわかると、溜めていた息を長く吐き出し安堵を示す。
「ああ姫さま……ディーは、ディーは、もう心臓が止まるかと」
「ルゥも思った」
一方ベアトリスは、いましがた剣を打ち合っていたふたりの前に立ちはだかり、空気を凍らすような殺気を放ちながらポキポキと指を鳴らしていた。
「姫さま、どうかご安心を……。たとえ剣がなくとも、わたしは戦えますからね。騎士学校時代、同期を全員素手で沈めた実力をいまこそお見せいたしましょう」
(なにそれこわい)
内心そう思いながらも、ルイーズはディオンから離れられなかった。
むぎゅっとしたまま顔をうずめるルイーズを絶え間なく撫でながら、ディオンは苦虫を?み潰したような表情でベアトリスを引き止める。
「やめておきなさい、ベアトリス。あの方は魔王エヴラールさま……丸腰のあなたが敵う相手ではありませんよ。あの様子を見るに、グウェンさまを裏切ったわけではないようですし」
「だからなんだ。魔王だろうが敵ではなかろうが我らが姫さまに剣を向けた時点で万死一択! 息の根を止めてやらねばこの腹の虫が収まらない!!」
「ええ、それはまちがいありませんが! 可能なら自分もいますぐ牙を向きたいところですが!! ……姫さまは、そのようなことお望みでないでしょう?」
ディオンの最後の言葉に、ベアトリスは我に返ったようだった。
弾かれるようにルイーズを見て、瞬く間にへにゃりと眉尻を落とす。纏っていた殺気を散らし、ルイーズのそばへしゃがみこむと、美麗な顔をくしゃりと歪めた。
「姫さま。あなたが望めば、わたしは──」



