ルイーズでも感じ取った相手の〝気の揺らぎ〟を、グウェナエルが見逃すはずもない。ルイーズが瞬きした直後には相手の首筋に剣の切っ先が突きつけられていた。
「っ……」
男は息を呑み、ぴたりと動きを止める。度重なる剣戟が終わりを告げ、ルイーズはようやく相手をしっかりと見ることができた。
癖のない藍の髪。どこか朧げな雰囲気を孕んだ灰青の瞳。研ぎ澄まされた刃のように端麗な容姿をしているものの、頬にははっきりと傷跡が浮かんでいた。
表情や佇まいからも、どこか怜悧な印象を受ける。
「……さすがですね。五年経っても剣の腕は衰えていないようで」
男は構えていた剣をそっと下ろす。
そのまま静かに鞘へと収めると、小さく息を吐いた。
「参りました。どうか命だけはご容赦を」
「……ふん。幾久しいというのにずいぶん乱暴な挨拶だな、エヴラール。言っておくが、俺がおまえに負けるなどたとえ世界が滅んでもありえん話だぞ」
「ええ、だからこそですよ。本物であればこの程度造作もないはずですから、あえてこの形でご挨拶させていただいたのです」
エヴラールと呼ばれた彼は、黒翼を羽ばたかせ、数歩分ついと下がる。
──と、胸に片手を当て、その場で恭しく頭を垂れた。
「お帰りなさいませ、我が主。あなたさまのお帰りを長らくお待ちしておりました」
さきほどまで彼が放っていた殺気は霧散し、すでに見る影もない。
彼からは普段のディオンから感じる〝忠義〟と同じ匂いがした。
一方わずかばかり沈黙していたグウェナエルは、ややあって剣を消し、ルイーズを抱き直す。その口からは苦々しいため息が零れ落ちた。



