差し出されたものを見てみるが、それは異国の文字のようでなんと書いてあるのかまったく読み取れない。完全に暗号を見ている気分で、ベアトリスを見る。
「……おねえさん、読める?」
「いえ、わたしも読めません……。これでも近隣国の言語の読み書きには不自由しない程度の知識はあるはずなのですが」
ふたりで顔を見合わせた後、ほぼ同時にグウェナエルへ視線を遣る。
「悪魔文字だからな。人には読めなくて当然だろう。ま、おもにベアトリスがルイーズの従者となること。そして主であるルイーズへの裏切りは、いかなる理由があろうとも許さぬという旨が書かれている」
端的に説明し、グウェナエルはふたたびどこからともなく万年筆を取り出した。
「契約を反故にした場合は、悪魔の契りに則り、制裁が下されることになる。今回であればベアトリスの裏切りだな。万が一のための契約ではあるが、異論がなければそこに名を書くといい。さすれば契約は成立する」
「ありがとうございます。ルイーズさま、お名前は書けますか?」
「うん、書けるよ」
読み書きは、幼い頃からミラベルとディオンが教えてくれていた。
前世の記憶が通用しないため、相応に苦労はしたが。
しかし、持ち前の理解力のおかげで、ディステラ国語の読み書きならばある程度できるようになったいま、自身の名前を書くことなど容易いことだ。
(ルイーズは、けっこう簡単なんだよね。まるがいっぱいで)
近くにあった大きめの石を台に名を書き記し、今度はベアトリスに渡す。
そうしてベアトリスも名を刻んだ瞬間、誓約書の全体に淡い刻印が浮かんだ。



