ふと疑問に思ったことを尋ねてみれば、ディオンはわかりやすく困ったような反応をした。
「すみません、姫さま。前例がないことなので、正確にはわかりかねます。ですが、たとえ半月持つとしてもそんな苦行はさせませんよ」
「んー。ディーの気持ちは、うれしいけど」
ルイーズは一見〝人間〟だが、その実、人と悪魔の混血──両方の血を持つ者だ。
艶やかな白銀の髪や氷を透かしたような薄蒼の瞳は、人であった母親から。
わずかに先の尖った耳や犬歯、人では有り得ないほどの視力などは、悪魔であった父から受け継いでいる。
しかし、人と悪魔が結ばれることは禁忌とされる世界で、悪魔の要素は罪の証。
尖った耳は普段から癖のある髪で覆い隠すようにしていたし、ルイーズ自身〝人として〟育てられた。ゆえに、己が悪魔だという自覚も、正直薄い。
(……わかんないことだらけだから、不安なのかな)
ルイーズは、唇をきゅっと引き結んでうつむいた。首飾りの〝聖女の睡宝〟を両手で握りしめれば、あの日のことが脳裏によみがえる。
『ディー。……ルゥね、パパに会いたい』
──それは、ルイーズたちが故郷を出る数日前の言葉。
罪を背負うルイーズは、人前に姿を晒せない。そのため、物心ついた頃にはすでに、人界における未開の奥地〝ルエアーラ幽谷〟で身を隠しながら暮らしていた。
家族は母親と使い魔のふたりだけ。
けれど、不満はなかった。たとえ箱庭のごとく小さな世界でも、平和に、幸せに、そしてなにより安全に暮らすことができていたのだから当然だろう。むしろ、ずっとこんな生活が続いてほしいと願っていたくらいである。



