「……ディオン。ルイーズさまのお母上は、いつ旅立たれた?」
「もうふた月ほど前になりますか。自分たちがザーベス荒野に向かうと決めたのは、ミラベルさまの最期のご意思があってこそでしたから」
「そうか。……大聖女ミラベル殿の永遠の道行に、どうか幸あらんことを」
ベアトリスが瞑目し、静かに祈りを捧げる。
その横でディオンもまた同じように祈りを捧げた。
こちらの世界では、以前の世界のように墓石に手を合わせたりすることはない。その代わり、こうして花を捧げて心より祈るのだ。
──どうか旅立った先に幸せな安寧がありますように、と。
「よかったね、ママ。みんな来てくれたよ」
微笑みながら語りかけるルイーズの横へ、グウェナエルが膝をついた。
「……ミラベル。ゆっくり休みながら、気長に待っていてくれ。おまえのもとへ行くまでは、もう少し時間がかかるからな」
指先で慈しむように墓石を撫で、ひどく穏やかに切れ長の目を細める。
そんな父の姿に、胸の奥がしくっとした。
祈りというよりも、願いだろうか。囁くように紡がれたその言は慈愛に満ちていたけれど、ルイーズはなぜか不安に駆られてグウェナエルを見上げた。
「……パパも、行っちゃうの?」
「いつか俺がこの命を手放すときがきたらの話だが。そのときは、きっとほかのどこでもないミラベルのもとへ行くだろうな」
「そっか……。さみしいね」
「心配しないでいい。それまでは、ルゥのそばから離れはしないさ」
ぽん、と。冷ややかで、それでもわずかな温もりを含んだ手が頭に乗せられた。



