一般の民ですら許されないのに、よりにもよって人を導く立場である者たちの掟破りだ。それぞれの世界に激震が走るのも想像は容易い。
「なんにせよ、今後も二つの世界が必要以上に交わることはないはずだ。悪魔が闇に属するのなら、人は光に属するモノ。表と裏は普通、相容れない」
「でも、パパとママは……」
「……ああ。いやなに、俺とミラベルは少し特殊だっただけさ」
珈琲を啜りながら苦々しい顔をする父の様子を、ルイーズはじっと見つめた。
(普通は交わらないし、相容れないはずの相手を好きになっちゃったんだ)
前世の記憶を頼りに、難しい大人の言葉を理解することはできる。だが、感情はちがった。言葉にできないことを正しく読み取るのは、とても気を遣う。
(人の、ママ。悪魔の、パパ。……ルゥは、そんな光と闇の両方を持ってる?)
こちらでの小麦粉、マクトラスの粉で作られたディオン特製〝スペシャルミニパンケーキ〟をもぐもぐしながら、ルイーズは小さな頭を回転させる。
(でも、ルゥは聖光力しか使えないよね。ディーとかパパみたいな闇魔法って、練習したらできるようになるのかな?)
糖分が欲しくて、ほぼ無意識に手を伸ばす。
掴んだのは、シードル花蜜が入った瓶だ。ちなみにシードル花蜜は、ハチミツほど甘さがしつこくなく、メープルシロップよりは癖がない。
シードルはルエアーラ幽谷に大量に咲いているため、我が家では常時ストック品ナンバーワン。とにかくなにと合わせても絶妙に合う、優秀甘味調味料なのだ。
(それとも、パパが言ってたみたいに人寄りだから使えない、とか)
瓶をひっくり返して、両手でぎゅぎゅっと圧迫する。



