「……姫さまは本当に賢くあられますね。ディーはなんとも複雑な気持ちですよ」
ルイーズの手から水筒を受け取り、ディオンはしぶしぶ口に運んだ。
それでも、ほんのひと口。さきほどのルイーズと同じように、唇を濡らす程度しか飲んではくれない。
「もういいの?」
「はい。夜になれば岩肌に結露ができますから、自分はそれで十分です」
「んん……でも、ディー。お花は増えてるけど……岩はもう、ないよ」
ザーベス荒野における気候の特徴としてまず挙げられるのが、昼夜の気温差だ。
昼間、砂漠のごとく立ち込める熱気は、夜になると途端に冷気へと入れ替わる。
そのあまりに急激な気温差は命取りでもあるが、同時に発生する大量の結露はルイーズたちの貴重な水分源。
とりわけ、ザーベスの合間に転がっている大岩の表面に流れる水滴は、集めやすいうえに〝浄化〟しやすいので重宝していた。
──だというのに、昨日はその〝岩〟がそもそも見つけられず。
今日も一日探しながら移動していたが、一向に現れる気配はない。
「岩がなかったら、お水も溜められないし……どうしよう」
「そう、ですね。奥地に進むにつれ、岩の数が極端に減っているようです。今後はさらに水分の確保が難しくなってきそうですね」
水分源がなくなる。
ルイーズたちにとっては死活問題だ。どうにかして早急に解決策を見出さなければ、そう遠くないうちに生存の危機に陥るだろう。
「ねえ、ディー。ディーはさっき、ひと月は飲まず食わずでも大丈夫だって言ったけど……ルゥは? ルゥははんぶんだから、半月くらい?」



