「エヴラールさまですよ。陛下もよく知るお方でしょう?」
「……エヴラールだと?」
脳裏に浮かんでいた名前のどれでもない、予想外の悪魔だった。
グウェナエルは内心面食らって、思わず片眉をつり上げながら腕を組む。
「あの男が魔王など……正直、信じられんが」
「自分も最初に耳にしたときは驚きましたよ。陛下の側近のなかでも目立った印象はありませんでしたし、あまり権力には興味がなさそうに見えていたので」
エヴラール。その男はかつて、グウェナエルが大魔王として魔界を支配していた時代にそばに置いていた配下のひとりだ。
当時の階級は上級悪魔で、魔力量も実力も申し分ない。加えて頭もきれるため、参謀、そして懐刀としても優秀な側近だった。
グウェナエルも背中を預けられるほどには信頼を置いていたし、配下のなかでもとりわけ気にかけていた者でもある。
だが、ディオンの言う通り、とにかく〝王〟である想像がつかない。
(……どちらに転んだか。ふむ、考えたところでわからんことだが)
グウェナエルはしばし思考を巡らせたのち、静かに立ち上がって窓へ近づいた。
星々が瞬く空を見上げれば、薄がかりの霧越しに欠けた月が見える。
「ディオン。俺は明日、魔界に戻る」
「様子を見に行かれるので?」
「ああ。なにはともあれ、状況を確かめねば今後の方針が決められんからな」
「承知しました。姫さまはいかがされますか?」
「俺と行きたいと言えば連れていくし、ここにいたいのならその意思を尊重する。その場合は、魔界の状況を確認でき次第、こちらに帰ってくるつもりだ」
ディオンは瞳孔をわずかに広げながら、静かに問うてくる。



