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「……陛下、まだ起きておられたのですか?」
ぱち、ぱち、とくべた薪が小さく爆ぜる石造りの暖炉前。
手作りのロッキングチェアに揺られながら思考に耽っていたグウェナエルは、自身へ投げかけられた声に視線だけついと上げた。
「ルイーズはどうした、ディオン」
「布団に入って、すぐお眠りになりました。久しぶりの我が家ですから安心したのでしょう。いまはベアトリスがそばについてくれています」
「そうか。ならばいい」
ディオンにも座るよう促せば、彼はとくに恐縮することもなく対面の椅子に腰を下ろした。
(ふっ……こいつも変わらんな)
普通の悪魔ならば『大魔王を前に恐れ多い』と絶対にしない行動だ。だが、グウェナエルは昔から、ディオンのこういったところをなにより気に入っていた。
この男にとって〝主〟以外は、敬意こそ示せどそれ以上にはなり得ない。その線引きがしっかりとできているからこそ、むしろ信頼がおけるとも言える。
「よろしかったのですか? 姫さまが一緒に寝たかったと仰っていましたよ」
「……さすがに今日はな。慣れぬ存在とでは深く眠れんだろうし、もう少し距離を縮めてからの方がいいだろう。頃合いを見て、今度は俺の方から誘ってみるさ」
「そうですね」
そこで一度言葉を切ると、ディオンはわずかに睫毛を震わせた。



