「ディー」
代わりにルイーズを抱えていたのは、見目麗しい美青年。首の後ろでひとつに括った青銀の髪と黄金の瞳は、魔獣時の彼の特徴を如実に表している。
二十代前半くらいに見えるが、実年齢はゆうに百歳を超えているらしい。
「お水を飲みましょう、姫さま」
「んん、もう残ってないの。さっき全部、飲んじゃったから」
「大丈夫ですよ、自分のがありますから」
ルイーズはしゅんと眉尻を下げ、ふるふると首を横に振る。
「だめだよ、ディーが飲まなきゃ。だってディー、ずっと飲んでないでしょ?」
「自分のことはどうかお気になさらず。悪魔は人の何十倍も生命力が強い生き物ですから、たとえひと月飲まず食わずでも死にはしませんよ」
さらりと言いかわし、ディオンは自らの荷袋から革仕様の水筒を取りだした。
手早く水を飲ませようとしてくるディオンに、ルイーズは辟易する。
(……ひと月って。もうひと月だよ。ディー)
こうなったディオンは頑固で、てこでも譲らない。
それがわかっているから、仕方なくルイーズは差し出された水筒を傾けて、生温くなった水を飲んだ。ほんのひと口。乾いた唇をわずかに濡らす程度だけ。
だってあと三口も飲めば、この水筒もいよいよ空っぽになってしまうから。
「ディーも、飲んで」
「いえ、ですから自分は……」
「いいから、飲んで。飲んでくれなきゃ、ディーのこときらいになるよ?」
ルイーズがこてんと首を傾げれば、ディオンはぐっと苦渋の色を見せた。
だが、ディオンもまた、こうなったルイーズが決して譲らないことは承知しているのだろう。ややあって、その表情に疲れ交じりの諦めが浮かぶ。



