『ありがとう。でも、もう守ることもできなくなってしまった。だから今度は、あなたに託すわ。……パパなら、あの子を正しく導いてあげられるでしょう?』
クスッといたずらに笑うミラベルは、なにも変わっていなかった。
大聖女の名にふさわしく聡明で、温かく、まるで花のように笑う人。それでいてミラベルは、時折、驚くような行動力を発揮するのだ。かつて、息抜きに出かけた人界で偶然出逢ったときのことを思い出すたびに、グウェナエルは笑ってしまう。
「まあ〝正しく〟かはわからんが……踏み外さんように見守ることはできる。人がそうするやり方は、かつてのミラベルから学んだからな」
彼女の穢れのない純心は、いつだってグウェナエルを癒し、導き、守ってくれた。
「俺はただ、父としてあればいいのだろう?」
『ふふ、そうね。きっとそれが、あの子にとって標になるわ』
「ああ。──なあ、ミラベル。俺はずっと、おまえのことを愛しているからな」
『知ってる。でもね、わたしもよ、グウェン。あなたをずっと愛してる』
額が合わさる。
触れ合った箇所から伝わってくる温もりに、グウェナエルは笑みを深めた。
たとえ五年離れ離れでも、この気持ちは変わらない。
グウェナエルはたしかにいまも、彼女を恋い慕っていた。
『グウェン。どうかわたしたちの娘を、もっと広い世界へ連れ出してあげてね』
それこそが、聖女の睡宝に込められたミラベルの意思であり、願いなのだろう。
受け取った言葉は、グウェナエルの心に棲みつき、深く響いてゆく。
そうしてグウェナエルは誓い、決意したのだ。
(ああ……守り、導き、連れ出そう。ふたたびすべてを賭けてでも。俺たちの娘が、この先、正しい道を歩んで行けるように)
覇者ではなく、夫として。父として。
愛する者のために、いま一度、この身の自由を世界に捧げようと。



