ルイーズが頭を悩ませたところで、グウェナエルはパチンと指を鳴らした。
その瞬間、グウェナエルの足元に見たことのない魔法陣が浮かびあがる。同時に、あたりに吹き飛ばされそうなほどの強風が巻き起こった。
「……っ!?」
「ふむ……想定内ではあるが、封印前に消費しつくした魔力はまだ回復しきっていないようだな。まあ、問題ない。転移くらいならばできるだろう」
「てんい?」
「空間移動の闇魔法さ。知っている場所へならどこへでも飛べる。ルエアーラ幽谷はミラベルの記憶を辿ればいけるはずだ」
「ママの、記憶?」
「さきほど封印が解かれたときに、ミラベルの記憶の一部を共有してな」
呆気に取られたルイーズは、つい振り返ってディオンを見てしまう。
するとディオンは、少し気まずそうに苦笑した。
「記憶の件はわかりかねますが……。空間移動──転移魔法は、闇魔法でも最上級に値する古の魔法だと言われています。使えるのは魔王レベルの者のみでしょうね。不甲斐ないですが、上級の自分には使えません」
「え。パパ、すごいね?」
「それほどでもない。どれだけ力を有していても、肝心なときに守れねばなんの意味もないからな」
なにか含みを持たせて返したグウェナエルは、ディオンとベアトリスにそばへ寄るよう指示を出した。ベアトリスはしばし躊躇っていたものの、ルイーズが手招いたことで意を決したらしい。おずおずと魔法陣に足を踏み入れる。
「陣から身体を出すなよ。出した部分だけこの場に残るぞ」
さらっと恐ろしいことを告げたあと、グウェナエルはふたたび指を鳴らした。
──その瞬間、ルイーズたちはザーベス荒野の景色から消える。
そうして瞬きの刹那、次にルイーズの視界に映ったのは。
「ルゥの、おうちだ……」
ひどく懐かしい、もう二度と帰れぬと思っていた大好きな我が家であった。



