「……ごめんね、おねえさん。ルゥのこと、こわくなった?」
名前を知ったあとも『おねえさん』と呼んでいるのはわざとだ。今後のことを考えれば、なるべく距離を引き離しておく方がいいと思ったから。
「そんな……そのようなことは、ありません」
だが、ベアトリスはまたもや予想外の反応を示した。
「──ルイーズさまは、わたしの天使さまなのです」
ベアトリスは、一瞬だけ悲しそうに瞳を曇らせる。そのままディオンのとなりに並ぶよう前へ進み出ると、同じように片膝を地について頭を垂れた。
「たしかに驚きはしました。ですが、ルイーズさまが心優しく温かいお方だということはもう存じております。どうして怖いなどと思いましょうか」
「でも、ルゥは……」
「あなたがたとえ〝罪〟であっても関係ありません。なにせわたしは国から捨てられた身。むしろ、潰えるはずだったこの命を救われた瞬間から、わたしのすべてはルイーズさまのものです。あなたを否定するようなことだけは、絶対にしない」
向けられたのは、思っていた以上に重量のある言葉。
ルイーズは一瞬びしりと固まりながら、その重さに妙な既視感を覚えた。
「……ルイーズさまの御父上殿。さきほどのご無礼、どうかご容赦を。申し遅れましたが、わたしは貴殿の娘さまに命を救われたベアトリスと申します」
「ふむ。ルイーズにか」
「はい。ルイーズさまがわたしを見つけてくださらなかったら、わたしはすでにザーベスの亡霊となっていたでしょう。改めまして、心からの感謝と、忠誠を」
忠誠?と、ルイーズは目を瞬かせて首を傾げた。



