泰然とした微笑みを浮かべてはいるが、誰がどう見ても怒り心頭なご様子。その目はいっさい笑っていなかった。背後には後光のごとく闇が立ちのぼっている。
「なんだ、貴様は」
だが彼女はそんなディオンに怯む様子もなく、怪訝そうな顔で上体を起こした。
切れ長で鋭利な印象を受ける眼差しを向け、どこか忌々しそうに口を開く。
「男の天使など呼んでいないぞ。わたしが死に間際に呼んだのは、あくまで〝愛らしい天使さま〟だ。貴様はいっさい愛らしくない。帰れ」
「……なるほど。これは、お命を頂戴してもいいということですね」
最後の砦であった微笑みを、すんっと削ぎ落としたディオン。凄まじく嫌な予感を覚えてしまったルイーズは、勢いよく立ち上がりディオンに抱きついた。
「っ、姫さま?」
「だめ。いーこにしてて、ディー」
「ですが……!」
「だいじょぶ、ディーはちゃんと〝愛らしい〟よ?」
ルイーズがなかば確信犯でこくんと頷いてみせると同時、ディオンは両手で顔を覆ってその場にバタンと倒れ込んでしまった。
なにやら「ああ、だめだ」だの「愛らしい……ばっちくない……っ」だの、ぶつぶつ聞こえてくるが、ひとまず殺戮の危機は逃れられたようだ。
ふう、と胸を撫で下ろして、ルイーズはおねえさんに向き直る。
「あのね。あなたのお名前を、教えて」
「わたしか? わたしは、ベアトリスという。天使というものは、名も知らぬまま魂を連れていくものなのか。てっきり把握されているものかと思っていたが」
「んーん。ルゥは天使じゃないよ。だって、おねえさんはまだ死んでないもん。ちゃんと生きてるでしょ?」



