(なんとも恐ろしい生き物ですね、人とは。回りくどくて、ねちっこくて、悪魔とは大ちがいです。サクッと殺してあげた方が、まだ慈悲深いと思うのですが)
感覚のちがいなのだろう。理解はできそうにないが、べつにいい。
ディオンが〝たとえどんな生き物でも受け入れる〟のは、いまも昔もかつての主と現在の主だけだ。その他大勢の人間など、無機物にも等しいほど興味がない。
(目覚めたとして……もしも姫さまに危害を及ぼすようならば、自分は容赦なくあなたを殺しますよ。それが自分の使命ですから)
たとえルイーズに泣かれても、嫌われても。
本当の意味で彼女を守るためならば、いくらでも心を捨てられる。
女にひどく冷めきった目を向けながら、ディオンは腕のなかで眠るルイーズの頭に頬を預ける。まだ子どもの、幼さに満ちた香りが鼻腔をくすぐった。
(……ねえ、姫さま。姫さまなら、きっとわかってくださいますよね)
◇
おねえさんが目覚めたのは、地下室で看病を始めてから五日目のことだった。
「……んん」
ひと月以上移動し続けていたルイーズたちも、十分な休息を取れた頃。さてこれからどうしようか、とディオンと今後について計画していた最中のことだった。
ルイーズが急いで駆け寄ると、ディオンも慌てたように背後につく。
「姫さま、そんな近づいては──」
「だいじょぶ」
心配するディオンを一蹴し、ルイーズはおねえさんの右手をぎゅっと両手で握る。
すると、ぴくりと細い指先が動いた。同時に震えた瞼がうっすらと開く。
ゆらゆらと焦点の定まらない瞳は、ディオンの瞳とよく似た琥珀色だ。
「……、……?」



