いつもはディオンの背中に乗って移動するだけの日々だが、今日は全身運動のオンパレード。加えて、聖女の力もフル活用だ。疲れるのも無理はない。
自覚してしまえばなおのこと疲労を感じて、ふわぁ、と欠伸が零れた。
いまにも瞼がくっつきそうになりながら、ルイーズはおねえさんのもとへ向かう。
「……おねえさん」
頬にかかっていた彼女の短い赤髪をそっと指先で払いよけ、布団代わりに被せていた花弁を首もとまで引きあげてやる。
「だいじょうぶ。もう、だいじょうぶだよ」
知っている。命の灯の儚さを。
知っている。奇跡の力も、その脆さには意味をなさないのだと。
(生きて、おねえさん。絶対に、生きて。死んじゃダメだよ)
どんなに大切でも、どんなに願っても、命は簡単にこの手から零れゆくのだ。
だからルイーズは抗わずにはいられない。
まだ救える命を諦めるわけにはいかない。
でなければ、母を救えなかった自分を、一生恨むことになってしまうから。
(ねえ、お願いだから……ルゥの前で、死なないで)
いっそ懇願するように心のなかで祈った直後、ルイーズは耐えきれず眠りの世界へと誘われた。
◇
「姫さま、ただいま戻り──」
残っていた花弁をすべて抱えて地下室に降り立ったディオンは、しかし途中で口をつぐんだ。すうすうと寝息を立てている主の姿を認めて、ふっと相好を崩す。
(……眠ってしまわれたのか)
名も知らぬ赤髪の女性の傍らで、彼女の身体に突っ伏すようにして眠っている。



