「ですが、姫さま。焦って大人にならなくともよいのですよ。姫さまはまだ、たったの五歳なのですから」
「…………」
「母上が亡くなられてから、ずっと我慢しておられるでしょう? 自分はミラベルさまの代わりにはなれませんが、せめてあなたが手放しに甘えられる存在にはなりたいのです。それができるくらいには、そばにいると思いませんか」
あまりにも切実な色をはらむ、ディオンの瞳。
彼の言いたいことは理解できる。彼が求めていることもわかる。
(……ディーの気持ちは、ありがたいし、うれしいんだけど)
けれど、いま甘えてしまったら、ルイーズはルイーズのなかにある〝なにか〟が遠く離れていなくなってしまうような気がしていた。
前世の記憶なのか、あるいは前世のもうひとりの自分なのか。
はたまたまったく関係のないものなのか、それはわからない。
されど、この〝なにか〟がなくなれば、ルイーズはいまのルイーズを保てなくなると本能が告げていた。だから、ずっとずっと抗っている。
──……母を喪っても泣けなかったのは、きっとそのせいだ。
「……ありがと、ディー」
「姫さま……」
「ルゥはね、ディーのこと家族だと思ってるよ」
もとを辿れば、ディオンは喪った母から受け継いだ従者だ。一方で、生まれてこの方、あの限りなく隔たれた世界で共に過ごしてきた相手でもある。
恋慕の類ではないにしろ、なににも代えがたい大切な存在なことに変わりはない。
「ディーのこと、大好きだもん」
「……っ」
「だから、心配しないで? せっかくお水も手に入れられたし、きっとお花の蜜も食べられるから、ふたりでちゃんと、生き延びようね」



